布と語る

先日テレビで「あん」という映画を観ました。

樹木希林と永瀬正敏が主演。永瀬さんは題名は忘れましたが、下級武士の有り様を描いた時代劇の主演映画が印象に残っています。丁髷の剃り上は無精に髪が残り、着古した着物、袴はヨレヨレでした。

彼は違和感なく、なりきっていました。

この映画でも、観ている私が涙すると同時に彼も泣いていました。演技ではなく心からそういう気持ちが溢れてきたのでしょう。勿論 樹木希林さんが主演ですから当然ですが、スッ―とした流れで気持ちが収まってゆく感がありました。

さてさて、本題です。どら焼き屋の店長演じる永瀬君に樹木さんは、あんこの作り方を伝授します。

「小豆さんと、お話するのよ。雨や風に耐える事もあったでしょうね。大変でしたね。よくここまで辿り着いたのね。」

「ゆっくり炊かれて、美味しいあんこになりましょうね。」等々

 

画像左の布は、おそらく200年以上前の物です。古布を扱う店の主人 曰く「藍染布で作られた作業着は寒風の中での労働で、ここまで退色して刺し子は布の中に埋没するのです。」

この布は農民の たっつけ と呼ばれる細いズボンでした。

私はジャケットの両見頃に仕立てる為に、細かく ほころびた部分を細い藍染め糸で返し縫いをしました。

随分と時間がかかりましたが、「よく、今日まで頑張って残されてきましたね・・・もう直ぐ洋服に生まれ変わって洒脱な紳士がお召しになる事でしょう。」

右の布は継ぎはぎだらけの布団皮の一部です。布が弱っている箇所に、同時代の端切れを付けている最中です。

布に尋ね、語る時、ゆっくりとした穏やかな時間が過ぎてゆきます。